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大阪地方裁判所 昭和38年(行)44号 判決 1965年8月31日

大阪市浪速区西関谷町二丁目一八番地

原告

隈下正男

右訴訟代理人弁護士

小倉武男

密門光昭

小堀真澄

大阪市浪速区船出町

被告

浪速税務署長

右指定代理人検事

叶和夫

法務事務官 戸上昌則

国税訟務官 斎藤義勝

国税審査官 畑中英男

右当事者間の昭和三八年(行)第四四号所得税額決定取消請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立。

(原告)

被告が昭和三七年一〇月一三日付でなした原告に対する昭和三六年度分所得税額を金一、三四九、九一五円とする更正処分(但し審査裁決により取消された金六八、一七五円を除く)及び過少申告加算税額を金六四、八〇〇円とする賦課決定処分(但し審査裁決により取消された金三、四〇〇円を除く)はいずれもこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文と同旨。

第二、当事者双方の事実上、法律上の主張。

(請求原因)

一、原告は、昭和三七年三月一三日、昭和三六年分の所得税確定申告を所轄署長である被告に対し、総所得金額六七〇、〇〇〇円、所得控除額二六〇、二八〇円、課税総所得金額四〇九、七〇〇円、算出税額五三、七〇〇円は、源泉徴収税額三三、九〇〇円、申告納税額一九、八〇〇円として提出した。

二、然るところ被告は、昭和三七年一〇月一三日、これを総所得金額四、三九九、〇四二円、所得控除額二六〇、二八〇円、課税総所得金額四、一三八、七〇〇円、算出税額一、三四九、九一五円、源泉徴収税額三三、九〇〇円、申告納税額一、三一六、〇一五円、増差税額一、二九六、二一〇円、過少申告加算税額六四、八〇〇円とする更正決定並びに加算税の賦課決定をした。

三、原告はこれを不服として、同年一一月一四日、被告に異議申立をしたが、同三八年二月七日被告はこれを棄却したので、原告は同年三月四日訴外大阪国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は、同年一〇月一五日、原決定を一部取消し総所得金額四、二四五、九一三円、所得控除額二六〇、二八〇円、課税総所得金額三、九八五、六〇〇円、算出税額一、二八一、七四〇円、源泉徴収税額三三、九〇〇円、申告納税額一、二四七、八四〇円、過少申告加算税額六一、四〇〇円とする裁決をした。

四、しかし乍ら、原告の昭和三六年度の総所得金額は、不動産所得一五二、〇〇〇円と給与所得五一八、〇〇〇円との合計六七〇、〇〇〇円(申告所得額)であつて、その余は存しない。尤も、原告は同年中に、別紙目録第一号物件を代金七〇〇万円で訴外小長谷兵五に売却し、同目録第二号物件を代金七三〇万円で訴外岡本道夫他二名から譲受けたことはあるが、右については、租税特別措置法第三五条第一項第二号によつて譲渡所得はないこととなるので、原告の所得は前記のとおりである。然るに、被告の決定は、原告につき同年度中に前記不動産所得一五二、〇〇〇円と給与所得五一八、〇〇〇円との合計六七〇、〇〇〇円の他に譲渡所得三、七二九、〇四二円(訴外局長の裁決により三、五七五、九一三円に減額)が存するとし、これを前提として所得額を過大に認定した違法が存するので取消を求める。

(被告の答弁と主張)

一、請求原因の認否。

第一、二、三項は認める。第四項は被告の決定がその主張の様に原告の申告所得(不動産所得一五二、〇〇〇円、給与所得五一八、〇〇〇円の合計六七〇、〇〇〇円)の他に譲渡所得三、七二九、〇四二円(審査裁決により三、五七五、九一三円に減額)が存することを前提としたものである点はそのとおりであるが、原告の主張は争う。

二、被告決定(譲渡所得認定)の根拠

(一)  原告は、昭和三六年一月一八日、訴外山際電気株式会社(以下山際電気と略称する)に対し、第一号物件を代金一、一五〇万円で売却する契約を締結し(山際電気は代理人訴外土屋長松がその衝に当つた)。同日手付金一〇〇万円を受領し、同年二月一日残金一、〇五〇万円を受領した。原告は右を訴外小長谷兵五に対し代金七〇〇万円で売却したと主張するも、本件売買においては、原告と山際電気の間に予め売買価格は一、一五〇万円であるが、契約書面にはこれを七〇〇万円に圧縮記載し、且つ契約書面には形式上山際電気の専務取締役である小長谷兵五を買主として表示するとの諒解があつたもので、真実の買主及び売買価額は前記のとおりである。

(二)  原告は、第二号物件を仲介手数料二〇万円を含め七五〇万円で取得した。

(三)  第二号物件は、事業用、居住用に区分される物件であつて、原告の居住する家屋およびその敷地については租税特別措置法三五条の適用がある。

(四)  そこで被告は、第二号物件の取得価額七五〇万円を事業用五、八二一、五〇〇円、居住用一、六八七、五〇〇円に区分し第一号物件の譲渡価額一、一五〇万円、第二号物件のうち居住用部分の取得価額一、六八七、五〇〇円について租税特別措置法三五条の適用をして譲渡所得を三、七二九、〇四二円と算定した。その詳細は別表1のとおりである。

(五)  訴外大阪国税局長は審査の結果、右(四)の事業用、居住用の認定区分につき別表2のとおり認定して居住用部分の取得価額を二、〇六五、五〇〇円として譲渡所得額三、五七五、九一三円を算出し原決定を一部取消す裁決をした。

(六)  なお、右(四)、(五)における譲渡所得額の算出の根拠は別表のとおりである。

(これに対する原告の認否)

被告の主張二の(一)は否認し、(二)乃至(六)の主張は認める。

第三、証拠

(原告)

甲第乃至五号証を提出し証人小長谷兵五、同荒巻定巳、同土屋長松の各証言を援用し、乙第一号証の一は大阪国税局の印影部分の成立を認めるが、その余は不知、同号証の二乃至一〇、同第二号証の各成立は不知、その余の乙号各証の成立を認める。

(被告)

乙第一号証の一乃至一〇、同第二乃至七号証を提出、証人小長谷兵五、同荒巻定巳、同土屋長松の各証言を援用し、甲第三号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立を全部認める。

理由

一、請求原因第一乃至三項の事実は当事者間に争ない。

二、被告の決定は、原告の申告所得六七〇、〇〇〇円(不動産所得一五二、〇〇〇円、給与所得五一八、〇〇〇円)の他に譲渡所得三、七二九、〇四二円(審査裁決により三、五七五、九一三円に減額)が存することを前提とするところ、原告はこれを争うので判断する。

三、先ず、右譲渡所得の対象となされる取引として、原告が昭和三六年中に第一号物件を他に売却し、第二号物件を仲介手数料二〇万円を含めて七五〇万円で購入した事実の存することは当事者間に争なく、原告は右第一号物件は訴外小長谷兵五に金七〇〇万円で売却したと主張し、被告はこれは訴外山際電気に金一、一五〇万円で売却したと主張するのである。

成立に争のない甲第一号証、同乙第三乃至七号証、証人小長谷兵五、同荒巻定巳の証言によつて成立の認められる乙第二号証に証人小長谷兵五、同荒巻定巳、同土屋長松の証言を綜合すると、次の事実が認められる。「訴外山際電気は大阪市内に営業所を設置すべく昭和三五年秋頃から訴外東京建物株式会社(以下東京建物と略称する)に依頼して大阪市内に土地、建物等を物色し、訴外東京建物では同社の大阪支店をしてその衝に当らせていたところ、訴外関佐市を通じ原告所有の本件第一号物件の売買の話があり、その交渉を重ねて来たが、その間、山際電気の方からは、山際電気の大阪進出を業界に秘匿するため、表面上は同社の取締役である訴外小長谷兵五が個人で購入する様契約書を作ることが、また原告の方からは実際の売買代金は一、一五〇万円とするも、契約書面上は圧縮記載して七〇〇万円として貰い度いとの希望が出され、昭和三六年一月頃、前記訴外関及び東京建物を介して原告と山際電気の間に、(イ)売買価額は一、一五〇万円とするが、契約書面には七〇〇万円に圧縮記載する。(ロ)売買契約書には小長谷兵五を買主として表示することの諒解の下に第一号物件の売買の話しが纒り、山際電気においては、東京建物本社員訴外土屋長松を代理人として、これに前記諒解事項に従い作成した二通りの売買契約書(代金一、一五〇万円と七〇〇万円の二通り)を携行させて下阪させ、同年一月一八日、原告の主宰する三和電気株式会社事務所において原告と面接の上、右二通りの契約書にそれぞれ調印(買主小長谷兵五の押印はすでに東京で山際電気の代表者がなしていた)してこれらを交換し、手附金一〇〇万円が原告に交付された。そして、残額一、〇五〇万円のうち、右七〇〇万円の契約書に見合う六〇〇万円は小切手で、四五〇万円は現金で訴外土屋長松を介してそれぞれ二月一日原告に支払われ、原告はこれに対し、六〇〇万円については山際電気宛、四五〇万円については東京建物宛の領収書を訴外土屋に手交した。」前記甲第一号証には代金七〇〇万円、その買主小長谷兵五と記載されているが、右は前記認定の原告と山際電気間の諒解事項に基いて作成された虚偽表示の契約書であり、小長谷の印は証人小長谷兵五、同荒巻定巳の各証言によると、かねてより山際電気がその会社の計算に帰すべき行為についても、本件の如く取締役名義でなすことがあつて、そのため訴外小長谷において同社代表者山際俊夫に預けおいたものを、同人が使用したものと認められるところであつて、右甲第一号証は何ら本件第一号物件の買主が小長谷兵五であり、代金が七〇〇万円であるとする証拠とはならず、他に前認定を覆えすに足る証拠はない(甲第三号証はその成立の立証がない)。

されば、本件第一号物件の譲渡価格が一、一五〇万円であるとする被告の認定は正当であり、これに反する原告の主張は失当として排斥を免れない。

四、そうして、第二号物件の取得価額が仲介手数料を含めて七五〇万円であることと、右が事業用、居住用に区分される物件であるので原告の居住する家屋およびその敷地については租税特別措置法三五条の適用があるところ、その事業用、居住用の認定区分については少くとも訴外局長が審査裁決において採用した別表1のとおりの区分とすべきことについては当事者間に争いなく、これを前提として、租税特別措置法三五条を適用して本件第一号物件の譲渡価額を一、一五〇万円とする場各、別表1、2に記載の根拠によつて、訴外局長の裁決によつて一部取消された後の三、五七五、九一三円の限度における譲渡所得が有するとする被告の決定は正当であつて(なお、右第一号物件の譲渡価額を一、一五〇万円とする限りその後の課税所得金額の算出については前記局長の裁決の限度において原告も明らかにこれを争つていない)これを違法とする原告の主張は理由がない。

五、従つて、右譲渡所得の存在を前提としてなされた本件所得税額更正決定並びに過少申告加算税賦課決定(但し訴外局長の審査裁決において一部取消された限度において)はいずれも適法であり、(その余の所得原因並びにその計算関係については明らかに原告はこれを争わない)これが取消を求める原告の請求は理由なく排斥を免れない。

よつて訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石崎甚八 裁判官 潮久郎 裁判官 藤原弘道)

(物件目録)

第一号物件

大阪市浪速区日本橋筋四丁目一七番地の五

一、宅地 二一坪六合六勺

右に対する換地

日東地区弐ブロツク拾号ノ弐

一、宅地 一七坪六合

同区日本橋筋三丁目三七番地上

家屋番号同町第一五五番

一、木造トタン葺二階建店舗兼居宅 一棟

建坪 一九坪四合三勺

二階坪 一〇坪五合

同所三七番地の二所在

家屋番号同町第一六四番

一、木造トタン葺二階建店舗 一棟

建坪 九坪四合四勺

二階坪 三坪六合六勺

附属建物

一、木造トタン葺平家建物置 一棟

建坪 二坪三合一勺

右建物に附属する造作、畳、建具、電気、瓦斯、水道設備等一式並に前記建物の敷地

一、借地 二〇坪の借地権共現状の侭

第二号物件

大阪市浪速区西関谷町二丁目一八番地の八

此新坪一〇七坪二合四勺

但関谷区拾四ブロツク壱の内

右地上

一、木造瓦葺二階建事務所兼居宅

建坪 二三坪七合九勺

二階坪 一四坪二合五勺

右地上

一、木造瓦葺二階建倉庫及共同住宅

建坪 四一坪二合二勺

二階坪 四六坪九合五勺

中二階坪 四坪五合八勺

右地上

一、木造瓦葺二階建倉庫及共同住宅建坪 一九坪一合三勺

二階坪 一九坪一合三勺

以上

別表1

譲渡所得額算定の根拠

<省略>

※ 1.<3>取得価額は居住用財産の取得価額を計上した(別紙2参照)。 2.<7>特別控除額は租税特別措置法第38条の2による。

3.<8>所得税の課税標準となる譲渡所得額は所得税法第9条第1項本文(昭和36年当時施行のもの)による。

別表2

事業用と居住用との区分及び割合

<省略>

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